
第3章 あらゆる情報をオープンデータ化すべき理由 ~“常に最適化される地域の公共交通”も実現可能に~
前回の寄稿までは、現在国内外で幅広く進む公共交通の、特に利用者向けの交通情報のオープンデータ化の話をしてきました。
ここからは、オープンデータ化の対象が、交通情報だけで良いのか、そして、公共交通分野だけで良いのか、という論点に移ります。
交通情報、公共交通分野にとどまらないデータのオープン化
結論から言えば、仮に公共交通の利便性向上だけを目的においたとしても、交通情報以外の公共交通に関するデータや公共交通分野以外のデータもすべてオープンにすべきだと考えます。
なぜなら、繰り返し申し上げますが、何よりもオープンデータが、「どこかの誰かに乗ってもらう」だけでなく、「どこかの誰かに意見を言ってもらう」ためのものでもあるからです。
特に、地域公共交通の多くが自立した経営構造になっていないことを踏まえると、「どこかの誰かにお金を出してもらう」ためにも、データ、例えばサービスの収支・キャッシュフローの詳細、現状の設備や車両の維持修繕費等なども含めて、広くオープンにしていくべきではないでしょうか。
これらがきちんとオープンにされていれば、地域での議論は、次のように変わっていくと期待しています。
「ここにバス停を増やして欲しいです。利用希望者は何人くらいで、許容できる運賃負担はこれくらいです。おそらく現行ダイヤがこれくらい遅延することになるし、バス停の設置費用もこれくらいですよね。貴社の労務単価的にもこのくらいのコスト増かと思います。なので、地元の負担としては初年度これくらいを考えています」
「その近辺はバス停の設置場所の土地代がこれくらいかかるんです。バス停の無償提供や管理を地元でできますか?あと、利用が想定以下だった場合に補填する自治体負担はどれくらい見込めるでしょうか?」
「それでは、利用増が見込めたり、送迎サービスが不要になったりしそうな沿線施設に協力金をお願いしてみましょう」
このように具体的な議論ができるのであれば、要望する側もされる側も、無駄な議論、と厭うことはなくなるのではないでしょうか。
現在、国土交通省は交通サービスを許可し、規制するため、公共交通事業者から定期的に経営状況や利用実績の報告を徴収しています。また、報告を受けた定量的なデータを基にした地域の交通計画を策定するよう自治体にも求めています(※1)。しかしながら、公共交通事業者が国土交通省に提出する様々なデータは、自治体を経由せず、自治体が提供を求めても、公共交通事業者に帰属するデータとして、当該事業者の同意なしには国土交通省からも提供できないこととなっています。単純にこうした報告をそのままのオープンにすることは、事業者の内部情報に踏み込んでしまうので難しいでしょうが、地域の議論のための「交通情報以外の公共交通の情報」をオープンデータ化してこそ、「どこかの誰かが意見を言う」ことで地域公共交通を救う未来がはじめて実現します。※1 国土交通省は計画等の作成や運用について手引を発行している
出典:国土交通省 地域公共交通計画等の作成と運用の手引第2版(令和3年3月)
公共交通分野以外のデータのオープン化による効果
繰り返しになりますが、公共交通分野以外のデータのオープン化も、「公共交通のために」必要になります。
公共交通、移動サービスとは、つまるところ手段であって目的ではありません。誰もがどこかに行きたいから移動します。公共交通について様々な可能性を開くためには、移動の需要そのものの情報もできる限りオープンにする必要があります。
特に、地域公共交通の需要の大きな部分が通院・通学である以上、例えば、病院の通院者がいつどこから来ているのか、学生がどこからどこに通っているのか、授業や部活の時間は何時ごろか、といったデータは、地域公共交通の新たなニーズを考えて行く上で死活的に重要になります。
上記以外にも、住民の属性(年齢、障害の有無、所得等)、自家用車所有の有無、バリアフリーの必要の有無・程度など今まで点在していた様々なデータが想定外に結び付き、新たな移動ニーズを浮かび上がらせることもできるでしょう。
そして、新たな移動ニーズに対応可能なサービスが可視化されていて、その微修正にかかるコストやハードルも判明していくことが期待されます。
オープンデータ化でそうした状況を実現できていれば、世の中の変化に合わせて、地域の多様な関係者がそれぞれにできる範囲で負担しながら柔軟にサービスが修正され続けるという好循環が回り、地域公共交通が常に最適化されることになります。
これが、交通情報だけでなく、公共交通分野だけではないオープンデータ化が「公共交通のために」必要とされる理由です。
第1章 Googleに載らないものは存在しないと同義 ~進む“公共交通のオープンデータ化”と残された課題~第2章 ラストワンマイルサービスも含め「オープンデータ化」を徹底すべき理由 ~“潜在需要”獲得と無限の可能性~第3章 あらゆる情報をオープンデータ化すべき理由 ~“常に最適化される地域の公共交通”も実現可能に~第4章 無限の可能性を生む未来のために ~オープンデータ化の推進とデータリテラシーの両立を~第5章 公共交通のオープンデータを「仕組み化」した山形県 ~先進的な取り組みと見えてきた課題~
執筆者:酒井達朗1984年愛知県生まれ。国土交通省に入省し、都市計画、国際航空、道路法制等を担当。米仏への留学後、2017年から地域公共交通政策担当の課長補佐として、MaaS導入初期の方針策定や地域交通に対する独占禁止法の適用除外規定の策定等に携わる。2019年より山形県総合交通政策課長、2021年より現在は同県企画調整課長。公共政策学修士(東京大学)、Master of Arts in Law and Diplomacy(Tufts大学)、経済学博士(埼玉大学)。https://note.com/n_shirokitsune/※本稿は個人的見解であり、所属する組織とは関係ありません。